Category Archives for 写真集・写真関連書籍
写真集「古寺巡礼」土門拳
土門拳という人は本当に豪快な人で、
氏のエッセイ集を読んでも、
湯水のごとく酒を飲んだり
すぐに取っ組み合いの喧嘩を始めたりといった
エピソードには事欠きません。
その一方で
氏の残した写真はとっても繊細で
その気迫が細部に宿っているのを肌身に感じるような
独特の雰囲気を持っています。
いちどコマーシャルカメラマンをしていた時に
秋田県酒田市の土門拳記念館に行ったことがありますが、
そこでは代表作である「古寺巡礼」が
常設展示されていて、
往年の大作を間近に見ることができます。
この古寺巡礼は全5巻で完結しましたが、
取材は法隆寺に始まり、
三十三間堂の撮影をもって終了するまでに
約15年間を費やしました。
完全主義の土門拳らしく
印刷には絵画や天然色写真の複製などに向く高級印刷、
8色の原色版印刷を採用しましたが、
原色版印刷の職人が絶えたのを理由に、
1995年版を最後に絶版となりました。
現在は全集の編集版が残るだけですが、
当時の熱い情熱を垣間見ることができます。
土門拳 古寺巡礼
写真集『東京窓景』中野正貴
窓はよく、額縁に例えられますが、
中野正貴さんの東京窓景は、
ある意味そうした寓話としての窓を
非常に洗練された形で具現化した、
非常に意欲的な作品と見ることが出来ます。
そもそも中野正貴さんという人は
コマーシャルカメラマンとしてのキャリアを
積み上げて来られた方で、
広告写真特有の繊細さがフレームの各所に
見られるのは決して偶然ではありません。
そもそも屋外と屋内では
光の量がまったく違うので、
普通に撮ると
外が真っ白or中が真っ暗になってしまします。
そういった意味でも、
室内への光の入り具合であるとか、
光線状態など相当緻密に撮影されたものであると
思われます。
熟練された技術だからこそ
それが”あっさり”と見えてしましますが、
その技術を見せないあたりが
一流の広告カメラマンの成せる技ではないでしょうか。
『東京窓景』中野正貴
畠山直哉さんの思い出
はじめて「LIME WORKS」をみたのは
写真を始めたばかりの1997年ころ。
作者の畠山直哉さんは
この写真集で木村伊兵衛写真賞を受賞されて、
当時気鋭の写真家でした。
その畠山さんがワークショップをされるというので、
学生のころ1度参加させていただいたことがあります。
集合場所は万博記念公園。
写真から受ける印象とは違って
革ジャンにシルバーアクセサリーを身につけた、
しかし個性やこだわりを強く感じさせられる
第一印象でした。
そのような風貌で、
大きなカメラを三脚につけて語るその様子は、
なんとなく不思議で
とても強烈に記憶に残っています。
いま思い返せば
あのカメラはこの「LIME WORKS」を撮影した
8☓10のカメラだったのだな、と思うのですが、
当時はそんな知識もなく、
なんとなくその珍しい風貌のカメラを眺めていた記憶があります。
あれから20年近く。
畠山さんの作品は年々進化を遂げていますが、
”写真であることだけですでにすべてを語っている”
「LIME WORKS」に見る作品世界は
決して損なわれることなく、色褪せない
とてもすばらしいものであることに
改めて気付かされます。
ライム・ワークス LIME WORKS
写真集『ダカフェ日記』森友治
正直な話、
家族が撮った家族写真は最強だと思います。
カメラマンにしか撮れない写真もありますが、
家族にしか撮れない写真というものが
確実に存在します。
家族が撮った家族写真には
撮影者と被写体の、
または被写体同士の
親密な距離感があって、
その仕草すべてに意味があります。
このダカフェ日記のすごいところは、
その個人的な親密さが
ある意味誰にでも感じることの出来るような距離感で
洗練され簡潔に提示されていることです。
そこはデザイナーが本業の
森友治さんの妙技とも言えますが、
それに加え、
毎回写真についている
短いキャプションが
なんともいえずいい味をだしています。
ダカフェ日記 森友治