第34回 伊奈信男賞
2009年第34回伊奈信男賞が発表になりました。
受賞者、受賞作は
太田 順一写真展 「父の日記」
作者の父親が遺した日記である。
夫人に先立たれて
ひとり暮らしを余儀なくされた頃からつけ始め、
87歳で逝くまでの20年間、毎日欠かさず書いていた。
性格そのままに、小さな文字でびっしりと。
何の趣味もなくこつこつと働いてきた
昔式の人間であったから、
内容は何をつくって食べたとか、
テレビで見た何がどうであったとか、凡庸なものだが、
端々にひとりで老いていくことへの不安が漏れ出ていて、
だからこそ人に迷惑をかけぬよう達者であらねばと、
人一倍健康を気遣っているさまが記されている。
亡くなる2年前、
認知症(痴呆症)のこともあって老人施設に入った。
本人にとって入所は不本意であったようで、
そのときを境に日記は錯乱したものにと変わる。
ページは汚され、殴り書きがなされ、
偏執的に同じ文言、記述が繰り返されていく。
日記は、父親の脳を襲った嵐のその痕跡なのだろう。
人はこのようにして老い、死んでいくと知らされた。
遠からず訪れる作者自身の姿を見る思いの作品である。
モノクロ47点。<Nikonホームページより>
太田順一(おおたじゅんいち 1950年-)
奈良県生まれ。
早稲田大学政治経済学部中退。
大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校 大阪)卒業。
<主な受賞>
2000年 第12回写真の会賞
2004年 日本写真協会賞作家賞
<写真集>
『ハンセン病療養所 百年の居場所』(解放出版社)
『化外の花』(ブレーンセンター)
『群集のまち』(ブレーンセンター)
『女たちの猪飼野―フォト・ドキュメンタリー』(晶文社)
『日記・藍』(長征社)
『大阪ウチナーンチュ―フォト・ドキュメンタリー』
<著書>
『ぼくは写真家になる!』(岩波ジュニア新書)