Daily Archives for 2009年9月30日

第34回 伊奈信男賞


2009年第34回伊奈信男賞が発表になりました。

受賞者、受賞作は
太田 順一写真展 「父の日記」

作者の父親が遺した日記である。
夫人に先立たれて
ひとり暮らしを余儀なくされた頃からつけ始め、
87歳で逝くまでの20年間、毎日欠かさず書いていた。
性格そのままに、小さな文字でびっしりと。

何の趣味もなくこつこつと働いてきた
昔式の人間であったから、
内容は何をつくって食べたとか、
テレビで見た何がどうであったとか、凡庸なものだが、
端々にひとりで老いていくことへの不安が漏れ出ていて、
だからこそ人に迷惑をかけぬよう達者であらねばと、
人一倍健康を気遣っているさまが記されている。

亡くなる2年前、
認知症(痴呆症)のこともあって老人施設に入った。
本人にとって入所は不本意であったようで、
そのときを境に日記は錯乱したものにと変わる。
ページは汚され、殴り書きがなされ、
偏執的に同じ文言、記述が繰り返されていく。
日記は、父親の脳を襲った嵐のその痕跡なのだろう。
人はこのようにして老い、死んでいくと知らされた。
遠からず訪れる作者自身の姿を見る思いの作品である。

モノクロ47点。<Nikonホームページより>


太田順一(おおたじゅんいち 1950年-)
奈良県生まれ。
早稲田大学政治経済学部中退。
大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校 大阪)卒業。
<主な受賞>
2000年 第12回写真の会賞
2004年 日本写真協会賞作家賞
<写真集>
『ハンセン病療養所 百年の居場所』(解放出版社)
『化外の花』(ブレーンセンター)
『群集のまち』(ブレーンセンター)
『女たちの猪飼野―フォト・ドキュメンタリー』(晶文社)
『日記・藍』(長征社)
『大阪ウチナーンチュ―フォト・ドキュメンタリー』
<著書>
『ぼくは写真家になる!』(岩波ジュニア新書)

30. 9月 2009 by hasestudio
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